最初は「オーバーラン」（能力以上の運転）という呼び名、次いで「オーバーロード」（過負荷）と迷ったのですが、こっちの方がしっくり来るかなと思い命名。但し便宜上の名前であってらでぃ子がそういう名前で読んでるわけではありません、たぶん。

　専用の薬が必要。費用は一粒で二十万ゴールド以上、精製には最低三日かかる。
　あらゆる体機能や処理を操り、己の全てを目的の達成（多くは敵の征圧）の為だけに使えるようにする技術。
　直接戦闘の切り札であり、その時点で持っている身体能力を引き出す総和が最も高くなる。
　平たく言えば「身体を意のままに操る」という特性を限界まで高めた状態。

　全てを「目的の達成」に向けるため、言語や感情といった機能は殆ど働かなくなり、痛みさえも単なる損傷の信号として処理、身体にかかる負担も運動に支障が出ない限りは全て無視される。
　感覚は目標の達成に必要と判断されたもののみに向けられ、それ以外の情報は意識に浮き上がる前の段階で全て遮断される。視野は狭まり、色彩感覚も必要なければ薄れ、場合によっては可聴域も制限された状態でひたすらに標的を追う。
　必要な思考・計算の殆どが識閾下に委ねられるためその処理速度は意識的な思考・計算の比にならず、反応速度等は種族人間の理論的限界値を超える。
　なお意識的な思考をほぼ放棄している為に自我が希薄になったように見えるが（実際になっているとも言える）意識はあるし判断力自体は至って正常、或いはもっと優れた状態にある。単に、その基準が「目的の達成」のみに向けられているというだけで。

　自分の身体にかかる負担も計算に含まれてはいるが二の次であり、意図した通りの動きを行う時に筋骨が悲鳴を上げる事もしばしば。また、神経や脳の活動に必要なエネルギーが増加するため（そして当然ながら無茶な動きをするならそっちにも必要である）、糖や酸素の消費量も上がる。
　心肺がマッハで血圧とかもヤバイ。むしろ全身が危険。代謝が異常。細胞死ぬ。毛細血管とかブチブチ行く。粘膜から出血する。むしろ皮膚表面から出血しかねない。その内筋肉とか分解され始める。
　自分の身体を壊さないように制限がかかってるものも解除される（※現実の人間でも発生できる全てのエネルギーを発生させると身体が壊れるので制限がかかっています）。唯一残る安全装置は「身体が限界に来る直前、自身に沈静の術をかけながら活動を停止する」反射行動のみ。つまり、突然昏倒する危険と常に隣り合わせ。

　この状態では当然ながら「闘いを楽しむ」ことや「殺すことへの抵抗感」なども消えてしまう。
　行動の全ては体感覚と計算に基いて決定され、身体は限りなく正確に「意のまま」そう動く。
　その様は精密機械。自分の身体を道具のように扱うことの究極。自分の目的を達成する為に自己意思やアイデンティティも捨て去った道具となること。闘技士時代の呼び名が単に「牙折り」ではなく「牙折り人形」だったことの由来。
　身体能力≒純粋な戦闘力の向上以上に、そういった精神状態（と言うべきかは不明だが）に入ることこそが"切り札"たる所以。

　……と書いてもいまいち伝わらない気がしたので、もうちょっと付け足しますと。
　プロ選手が体験するらしい「ゾーン」とやらのもっと極端なものが常に持続しているような状態です。高揚感とかはありませんが狙ってるものが大きく見えるとかゆっくり見えるとか近くに見えるとか何処がフリーか分かるとかボールがどういう軌道で飛んでいくかが蹴る前から見えたとか、そんな感じの何か。
　でもらでぃ子の身体能力の総和は人間と獣人の丁度中間、より人間寄りかもしれないところに居る（たぶん性別のせい）ので、錬度で勝る純獣人のさん（特にスピード重視のタイプ）にはこの状態でも叩き伏せられてしまいそうです、が。