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PBCサイト『Petit -ペティット-』に参加中のPLが、主に独り言を呟きたいという欲求を満たす為のブログです。 暫定的に。
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 テーブルに置かれたのは、街で仕入れた紅茶に山で採れた香草を混ぜたフレーバーティと、砂糖漬けにされた花だった。どちらも、興奮は鎮め落ち込みを高揚させる効果があるものだった。甘く華やかな香りが、生温い昼の空気にゆっくりと溶けていく。
「つまり、お前が帰って来た理由はそういうことか?」





 席につくや、ダルナが言った。いつも通りに銀髪を束ね、今日は黒い服を着ていた。腕や指を組んで威圧するような姿勢を取る事はしなかったが、何でもないときでも赤い瞳は突き刺すような強さを持っていた。
「その質問に、単純にイエスと言うのも、ノーと言うのも、正確じゃあないな」
 対して、ダートラディアがゆっくりと指を組んでテーブルの上に乗せている。単純に見て不安を表し哀れみを請う仕草だったが、実際の心理状態もそれに近いものがあった。
 ダートラディアにとって最悪のパターンは、ダルナの気分を害しアルミュールの存在そのものへ干渉されることだった。女神の亡霊騎士をどうにかするというのは簡単なことではないが、ダルナもまた自らの女神の力を引き降ろすことが出来たから、可能性としてはゼロではない。次いで、自分の自由を奪われる事を警戒するべきだが、それらを避ける為に言葉を重ねるのも避けねばならない。元々、こういった交渉は得意ではなかった。
「ふむ。では、どういうことだ?」
 それは無数の問いを含んだ言葉だった。何の為に帰って来たのか、その言葉の意味はどういうことなのか、昨夜の出来事はどういうことなのか。ダルナは余分な仕草など何一つ表さず、赤い視線を真っ直ぐにダートラディアへと向けている。
「オレも、何をどう説明したらいいものかずっと考えてて、全然思いつかなかったんだけど。たぶん一番大事な事、真っ先に言うべき事は、」
 ダートラディアが、小さく唇を舐めた。ティーカップには手をつけない。
「オレは、女神の胎には戻らない」
 コツン、とダルナが指先でテーブルを叩いた。単純な見方をすれば、拒絶などを表す仕草だった。事実、切り捨てるような響きがあった。僅かに目が細められたような気もしたが、気のせいかもしれなかった。息を深く吸うような沈黙を挟んで、再び口を開く。
「どういうことだ」
「オレはアレと一緒に行く。つっても、あっちの神の方へ下るってワケじゃねーけど」
 もっと別の所へ、とダートラディアは付け足す。それからカップを取って口をつけた。フレーバーティは中途半端に冷めていた。
「信仰を捨てるのか」
「……ああ」
「Monildの名前を捨てるか。私がお前に与えた血を」
「必要があれば、何だって捨てる」
 シュン、と甲高い音が立った。ダルナのカップの中身が、急激に沸騰した音だった。娘へ向ける視線が怒りを帯びる事はなかったが、吐き出す声は低かった。
「家族を」
「捨てる必要があるなら躊躇わねぇ」
「……何がお前をそこまで駆り立てる?」
 コツン。再びダルナがテーブルを叩いた。感情的な気配は消えたが、目は気のせいではなく細められ、一層に鋭い視線をダートラディアに注いでいた。その言い訳や動機を値踏みしてやろうというふうに。だがダートラディアの答えは、
「分かんね。自分でも、どうしてこんなに求めてるのか、さっぱり。強いて言えば、ただ単純に、どうしようもなく、欲しい」
「質問を変えようか」
「この手の質問に、明確に答えられる自信は――」
「アレは一体、何だ」
「……ナニ、って」
「お前にとって。私や、名前や、セレも、『何だって捨てる』と言わせる存在か。何なんだ、それは」
 一言一言、噛み締めるようにしてダルナが言った。声音やその他の仕草から怒りと思しき感情は失せ、ただ純粋に、昨夜の言葉通り"追及する"といった様子だった。ダートラディアの視線が泳いだ。考える仕草であり、追求から逃れるようでもあった。
「自分の一部のような……漠然と、そこにあるべきだと思うような。半身、兄弟、欲したもの、喪失の原型、執着のモデル……。欲しいと思ったんだ、けど、叶わなくて、失って、もっと欲しかったことに気付いて、ずっとそのままだと思ったのに、もう二度と手に入らないと思ったのに、それがもう一度来たから。もう絶対に失いたくなくて――」
「ああ、もう、いい」
 ダルナが再び言葉を遮った。今度は手を振る動作を交えて。
「お前が、凝り固まってしまっていることは分かった。何があったか具体的には知らん、聞こうとも思わん。だがな、お前の人生がお前だけのものではないと、分かっているのか」
「分かってる。同じような事は他の奴からも言われた。けど、それでも――ヒトは誰だって、自分の命と引き換えにしても叶えたい欲望を持っている。それに、オレだけの人生じゃないにしても、この命はオレのモノで、この魂がオレだ」
「それがお前の答えか」
「今、ここに居るオレの答えだ。だから――」
 パシン、と鋭い音が鳴った。同時、刺激を感じてダートラディアが頬に手を当てる。特に傷はついていなかったが、静電気が弾けたような痛みがあった。ダルナがそれを起こしたのだと、一瞬置いて気がついた。
「そうか。だがな、娘が心中しようと言うのを止めない親など居ない。何だって捨てると言うなら、私を踏み越えていけ。ああ、"二人がかり"でも構わんぞ?」
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