PBCサイト『Petit -ペティット-』に参加中のPLが、主に独り言を呟きたいという欲求を満たす為のブログです。 暫定的に。
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夏至にあわせて書いていたはずなのにこんな時期になってしまったお話。
特に他人が読んで面白い話ではありません、自己満足と言うかこの後に続ける予定の話の前振りのようなものです。
太陽が真南を指し天の中央にあろう時、世界から影が消えるであろう時。
その中に潜るように目を閉じる。自らの内へ内へと沈む。
外の感覚は衣服の重みすら消え失せて、水の中を漂うよう。
偽りの感覚は肉体の自覚すら消えうせて、水の粒子が自分の中を抜けていくよう。
自分の中に収まっている全ての情報が、自分と言う存在を通り抜けていくよう。
精神の海原の底で起こる砂の嵐。
弾丸のような感情が自分の中を通り抜けていく。
――今まで感じた全てが。
気を抜くとパニックに陥りそうな感情の嵐の中、これは過去に過ぎない、これを感じているのは今此処に居る自分ではないと言い聞かせる。
どれほどそうしていたか、やがて全ての砂が巻き上げられて海底が消失し、漂う感覚も失せて静寂がやってくる。
自分自身がバラバラに分解されるような感覚。肉体の自覚はとうにない筈なのに、それが細切れになっていくような気がする。
なにもない広がりの中で、自分のパーツが全方位へ飛んでいく。どのパーツが本当に自分なのかなんてことはどうでもよかった。
どのパーツが本当の自分なのかなんてことはどうでもよかった、そう思っている自分こそが核だった。虚構の世界の中で、距離と言う概念に置き換えれば数キロ先へ飛ばした肌が感覚するものを把握する自分こそが。
欠片は、光だとか闇だとかという概念すら存在しない虚構の空間を把握するための道具でしかない。精神の海の底ならば空間自体も自分であるはずだが、それもまたどうでもよかった。
全ての感覚は消えうせて、まるで自分が居ないよう。
自分の中に収まっている全ての情報が、その代わりに感覚として把握されるよう。
ある筈のない全身を覆う一種の地図を感じながら、ある筈のない目を――或いは既に閉じているのを改めて感覚として――閉じた。
◆ ◇ ◆
「自我を観察する自我、というのは誰だって持っているものだよ」
遠くで声がした。
「メタ認知と呼ばれるものだ。細かく正確な定義はあるけれど、簡単に言えばそういうもの。自分を客観視する能力だ――世の中には先天的にこれが弱い人種が居るけど、それが脳の器質的な障害によって強く縛られたものでない限り、訓練によって強化することが出来る。やはり厳密な定義とは違ってくるけど、認知行動療法と呼ばれるようなものも似たような原理だと思ってくれて構わないよ」
分かるね、と声が念を押す。
「君は今、この能力をきちんと持っている。先天的に弱かったものを補ったとは感じないね。むしろ、強かったのかもしれない。とにかく、君は私と出会った時点でかなり発達した自己認識、自分を客観的に観察する能力というのを持っていた。あらゆる感覚を『自分そのもの』とは別のものとして捉え、どれを認識しどれを無視するかを意識的な思考によって高度に取捨選択する能力を」
「先天的な才能の有無がどうであったかは別として、とにかくその能力は驚くべきものだった」
いつか聞いた話なのだろうと思う。聞き流すように努めた話。並べ立てられる褒め言葉は、相手にしないつもりで居ても意識に影響を及ぼすのだと知っていた。その影響がオレにとってよくないものであるということも。これは鎖でしかない。
「――それを伸ばしてみよう。上手く行けば、つまり君が先天的な才能を有していたのだということにもなる」
そんな才能は別にいらなかった。
反射的にそう思ったが、それが本心かどうかは「君が今『自分そのもの』から切り離しているのは主に肉体的な感覚だ。だから、取捨選択も不十分なんだろうね」
「精神的・心理的な感覚も切り離してみようか。特別なことではないよ。誰だって、自分が怒っているとか悲しんでいるとか、幸せだとか、精神を客観視する能力は持っているからね。大丈夫、それをほんの少し強める訓練を試してみようってだけだから――」
――大丈夫だったのだろうか、オレは。過去の情報や現在の思考が主に肉体的な感覚として浮かび上がるような気がした。虚構の世界が精神の底だとするのなら、此処で受ける肉体的な感覚とはつまり、精神的な感覚を何らかのプロセスによって肉体的感覚に置き換えたものなのだろう。
オレは何を感じているのか。
髪に――側頭部に、手の触れる感触があった。笑い声がする。クスクスと、愉快そうな。大丈夫、と。
大丈夫じゃない、反射的にそう叫ぶ自分が居た気がした。左上腕の辺りに。それが本心かどうかは分からない。確かなのは、今意識すべきはこの記憶ではないということだ。
纏わり付く情報を消し去り、もう一つ深く潜った。
◆ ◇ ◆
「お前は土壌だ」
遠くで声がした。
「決して枯れることのない豊かな土。どんなものでも実らせる祝福を宿した土だ。恵みも、痛みも、どんなものにも相応しい報いを与える力。それが、お前の中には宿っている」
分かるな、と声が念を押す。
オレは曖昧に頷いていた。分かるような、分からないような顔で。
「お前にはまだ難しいかもしれんな――」
その言葉は何度だって聞いた気がした。そう言いながらも課題は押し付けられ、オレはそれに応えた。実らせた。オレは確かに土壌だった。
故郷を出る頃には、完璧では無いにせよ大抵の苦痛を感じずに居ることが出来た。
「ディア」
覗きこむような距離で、声が降ってくる。
「お前が一番、私の血を濃く引いている。私を継げるとしたらお前だ」
ああ、そんな言葉も言われたことがあったか。その意味もまた漠然としか分からなかったような気がする。そもそもオレが を継ぐ意義が「"完成品"になって戻って来い」
「……結婚するなら人間にしろ。どうしてもと言うなら獣人もいいが、エルフだけは駄目だ。お前の中にはまだ獣人の血が濃い」
その時は抵抗の意思なんて一切なかったのが、纏わり付く感覚として認識された。
今は叫ぶ自分が居た気がした。右手の平の辺りに。それが本心かどうかは分からない。確かなのは、今意識すべきはこの記憶ではないということだ。
纏わり付く情報を消し去り、もう一つ深く潜った。
◆ ◇ ◆
声は聞こえなかった。
そこには何もない。自分をバラバラにした感覚や自覚さえなかった。水の中を漂うというよりは、全身を空中に投げ出しているのに似ている。空気以外のなにものにも触れていない、あの感じ。重力に引かれるまま、そこ以外の全てが何にも触れないまま、全身の力を込めて蹴りつけると、甘い痺れが骨伝い背筋を駆け上がってくる。その時と同じ。
ただ、今は空気に触れている感触も、重力に引かれている様子もなかったが。
ともすれば、このまま消失してしまいそうな。
ただ縦幅も横幅も厚みもない純粋な点として、自分がそこに存在していることが分かった。同時に、茫漠としたこの何もない広がりの全てが自分なのだという意識も、漂うような曖昧さでオレの中にあった。
更に深く潜ることをイメージする。何もない虚構の世界で、しかし今とは違う場所へと運ばれるのが感じられた。何かが過ぎ去っていった。胸を刺すような何かが。それが今、重要でない事も分かった。
再び、ばらばらになる。
自分の身体が、ではない。点としての自分ではなく、広がりとしての自分が崩れていくのを感じた。その一方で、純粋な点としての自分は全くぶれずに存在していた。
何もない虚構の世界で、しかし分解されたその世界が再構築されていく様が見えた。
それは、
◆ ◇ ◆
勢い良く跳ね起きて、急激な覚醒について来られない脳が眩暈を訴え、再びベッドに倒れこんだ。間を置いて、振り回した右手が痛む。乱れる鼓動を呼吸を、ゆっくりと元に戻した。発汗も止める。
首を動かして辺りを見回す。驚いたルシアンが、騒々しく傍までやってきて顔を覗きこんでいる。
「……大丈夫だ」
身体を起こし、そっと撫でてやる。どういう意思かは分からないがグツグツと低く鳴いて、膝の上に飛び乗った。ヒトより高い体温があたたかい、が、これからの季節は少々あつい。
腰を下ろしたルシアンを指先でかまいながら、窓の外へ視線をやった。日はもう傾いているが、夕方と言うほどではなかった。
「大丈夫だ――」
今度は自分に言い聞かせるように言う。
最終的に何処までたどり着いたのかは、はっきりとは分からない。
ただ、それまでの過程で浮かんだ情報が、一つの手がかりを示していた。
「……ニーズ、か」
それに従って生きてきた今まで。
特に何かを求められない今。
その一部を捨てようともしているこれから。
なんにせよそれが大事である事は明らかだったが、どうするべきかは分からない。
今は、まだ。
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確かなのは変態という病気を患っている事と、頭がよくない事、年齢制限は大丈夫だという事。
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